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接合部分にズームイン

つなぎ目を制するものは、設計を制す?!接合部のザックリ分類でみてみよう。

経験的に、ものを設計する時にかなりの時間を割くのは、いかに部品を組み合わせて成立させるか考える部分であることが多いなと思う。ひとかたまりの物がそれで機能すれば一番シンプルなのだが、いろいろワケあって部品が別れているのだ。

部品が別れているのは様々な理由があるが、主だったものとしては

・標準化

・加工工程のための分割

・輸送のための分割

という理由だろうか。

標準化とは、素材や半完成品、モジュール部品を何パターンか用意して、それの組み合わせで設計仕様を満たしていく考え方だ。例えば鉄という素材ひとつとっても、その鉄の特性を変えるために添加物の比率やその組成がいろいろ考えられるのだけれど、それを毎回やってると大変だしバリエーションが無限にあると扱いにくくて困る。それで、鉄も何種類かの規格が決められていて、設計する時はその規格を選んでいく。部品として仕上がっている既製品を使うと、その準備にかかる時間や費用が節約できるので、この辺の蓄積は設計の腕に大いに影響する。

加工工程のための分割とは、加工上の制限のために部品を分けて後から組み上げる必要が出てくる場合があるということ。例えば加工機械に入り切らないサイズのものを作ろうとすると何回かに分けて作る必要が出てくる。また加工に使う刃物が届かない部分が出てきても分けて作る必要が出たりする。そして、内蔵部品があるような機械や電気機器の場合はそれらの部品を収めるためにも分割しておく必要が出てくる。

輸送のための分割とは、ものを使う場所まで運ぶ際にサイズの制限を受けるため分割しておく必要が出てくる場合だ。有名な話で言うと、家具製造販売のグローバル企業のIKEAでは、製品の梱包形態として可能な限り「フラットパック」とするという方針を取っている。フラットパックにして製品容積を下げることで、主な輸送手段のコンテナ船に多く積載できることになり、輸送コストが大きく下がるためだ。しかしこのフラットパックのおかげでIKEAの家具は非常に多くの部品に分かれていて、組立てが大変というデメリットも内包している。

このような理由から、モノは分割されていくつかの部品を組上げて完成するようになっている。

部品に分かれていることで出てくる悩ましい問題が、その接合部分をどうするのかというものだ。部品をどういう手順で、どういう状況に固定するのか。それを考える必要がある。

では、ここで「2本のパイプにパネルを固定する」場合を想定してみる。

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一番単純なのは、パネルをパイプに直接つけることなのは間違いない。材料の相性は出てくるが、近年の高性能な接着剤で貼り合わせるのは一番手軽な方法だろう。これなら密着性も確保でき、一体感のある美しい収まりになる。ただ、接着剤での固定の場合は後々のメンテナンスが難しいのが問題だ。剥離したりして取れてしまっても、残った接着剤のせいで元に戻すのが難しい上、そもそもその剥離といった不具合をチェックするのも簡単ではない。接着剤を使う場合は製品の寿命まで放っておくということになるだろう。

 

また、パネルをパイプに直接つける場合、鉄系素材の場合は溶接も選択肢に上がるだろう。溶接した箇所は盛り上がった状態になるイメージがあるかもしれないが、後処理でサンダー仕上げ(やグラインダー仕上げ、研削仕上げなど)をかけると溶接部分はフラットになりどこが接合箇所かパッと見に判別できないくらいきれいに仕上がる。ただ、その仕上げはとても手間のかかる工程だ。シビアでない製品では溶接部は残したまま、焼付塗装や粉体塗装で覆うか、メッキなどの表面処理をかけて済ますことが多い。もちろん、溶接も接着と同様に分解が難しくなるので、あとあとメンテナンスで困らないように気をつける必要がある。

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次に手軽な接合方法は、パネルを直接押さえてパイプに固定する方法だ。ボルトやクリップ、金具などの固定部品を用いてパネルを固定するのだが、汎用の部品では多くの場合、その部品が表面に露出してしまう。そのような部品は、意匠的には邪魔になってくることが多いと思う。リベット留めや超低頭ボルトのような魅せる留め方もあるが、その扱いは組立て/施工時に非常に気を使う部分になることもある。

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留める部品が見えると都合が悪い場合がある。そんな時は、パネルと一体感のある固定用の部品を別途用意する方法を取ったりする。つまり、別の部品で押さえたり/はさんだり/ひっかけたりするということである。一体感のある部品であれば、留める場所をわかりにくくして外観を向上させたり、留める箇所にまつわるトラブルを回避する(飛び出たネジに服が引っかかりほつれる等)ことがある程度可能だからだ。既製品で特定の接合/固定に特化した部品が用意されていることもあり、比較的手軽に採用できる方法ではあるが、きれいな収まりをつくるのが難しかったり、固定のための部品が増えて作業工程が複雑になってしまったりする。

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外観はシンプルに保ちながらパネルをしっかり固定するには、見えない部分に固定のための構造を用意する方法を取ったりする。固定してしまったら分解することがない構造を「はめ殺し」と言う。その種のもので、いちばん身近な例では「スナップフィット」というツメ嵌合が用いられる。プラスチック製品で、ツメのかかりで留まっているのを見たことがないだろうか。ツメのバネ性で組み立てる向きにはスッと入るが、一度所定の位置にハマると簡単に取れなくなるものだ。ツメの形によっては一度固定すると壊さない限り取れなくなる。このような方法ならば見えない部分にその構造が来るので外観はスッキリする。スナップフィット以外にも、圧入する方法や「くさび」に相当するものを埋めて固定してしまうやり方もある。これらの固定方法を考える時は、素材の物性を見ながら接触条件を慎重に検討する必要がありなかなか経験を要する方法だ。

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そして外に接合箇所が見えずに、組み外しできる構造となると最高にやっかいである。上記の方法との組み合わせになったりもするのだが、パネルの内部に組立用の構造を用意して固定するわけである。意匠デザインが先に固まっていたりすると、この内部にどういう固定構造を用意するかで四苦八苦することもある。これも既製品としてブラインドジョイントは様々な部品があるが、往々にしてそういう部品は結構お値段するのだ。なので、素材加工時にこの固定のための構造も一緒に用意できないのか?を考えるのが設計者の腕の見せ所になる。

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というわけで、ここまでで挙げた接合方法について整理してみるとこんな表になるのかなと思う。設計難易度は上記で述べた順に難しくなるのだが、設計が簡単だからと言ってつくるのも簡単かというと必ずしもそうではない。一番わかりやすいのは溶接だろう。溶接というのは意匠デザインそのままに作れそうな接合方法なのだけど、いざつくるとなると溶接の熱履歴で形状はどんどん歪みが蓄積されていく。歪みなくうまく製造できても、その後の工程では死角の多い形状になりがちで、ハンドリングや組付けの難易度も上がる。世の中、溶接だらけになっていないのはそういうマイナスの面があるからだ。そして、それぞれの接合方法についての意匠的な面をあえて書くなら、こんな具合だろう。意匠はどの質感が正解というのが一概に言えないところなので、これは総合的で統合的な視点が必要な非常にクリエイティブな領域になる。僕から見ていると、視野が限定的な意匠デザインも時々あって、手直ししたくなることもある(余計なお世話)。

設計を仕事にしていない人も、身の回りの「接合部がどうなっているのか」をみると面白いんじゃないかなと思います。良いものがなぜ良いものなのか、は接合部が語っていることもあるんですよね。